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大阪地方裁判所 昭和46年(む)198号 決定

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

本件準抗告の申立を棄却する。

一、本件準抗告の申立の趣旨は「原裁判を取消す。」との裁判を求め、この理由は、準抗告申立書記載のとおりであつて、要するに被疑者には罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がないというにある。

二、ところで刑事訴訟法四二九条二項によつて同法四二〇条三項の規定が準用されるので、これを形式的にみるならば裁判官のした勾留の裁判に対しては、常に犯罪の嫌疑がないことを理由として準抗告をすることはできないものと考えられる。しかし同法四二〇条三項の規定は、公訴提起後において、犯罪の嫌疑の存否に関する問題はもはや単に勾留だけの問題にとどまらず、本質的に本案審理にゆだねるべきであるから、勾留の裁判に対し犯罪の嫌疑のないことをもつて争うことを許すとすれば、これを派生的な手続において重複して審査することを認める結果となり適当でないという考慮に基くものと解されるので、同法四二〇条三項を同法四二九条二項によつて裁判官のした勾留の裁判について準用するということは規定の趣旨からみて公訴提起後においてなされる準抗告について準用するとの趣旨に解するのが相当であつて、公訴提起前になされた準抗告については準用されないものと解される。

また、本件準抗告の申立が公訴提起前になされていることは、本件資料によつて明らかに認められるので申立は適法である。

三、よつて考えるに、本件資料によれば、(一)勾留の裁判の基礎となつている被疑事実は、「被疑者は昭和四六年五月二六日午後九時三〇分頃大阪市西成区海道町六番地先路上において大阪府西成警察署周辺において発生した五、二六集団不法事犯警備中の近畿管区機動隊第一四中隊第二小隊第三分隊々員司法巡査源光丈寛に対し右手拳で同人の左胸部を殴打する等の暴行を加えよつて公務の執行を妨害したものである。」ということであるが、被疑者は右事実に対し「私は当時酒を飲んでいました、そして、機動隊の群から離れていました、自分の周囲に警察官がいたかどうか知りませんでした、そのうちに警察官を殴つたこともないのに、後からだきかかえられ、逮捕されました。私は何故逮捕されたか解りません。」と弁解し、前記被疑事実の機動隊々員源光丈寛に対して暴行を加えたことを争つている。

(二) 司法巡査源光丈寛の司法警察員に対する昭和四六年五月二六日付供述調書によれば「私の右斜前方に立つていた年令二二、三才長袖シャツを着た男がいきなり私に向つて大声でこの野郎と怒鳴りながら右手の拳で私の左胸部の乳のあたりを力まかせに一発殴りつけたのです、そこで私はこの男を私に対する公務執行妨害現行犯人と認めこの男に公務執行妨害犯人として逮捕すると大声でつげると同時にこの男の右手をつかむとこの男は私の手をふり切つて一、二歩後方に退り逃走しようとしたので私はすぐにこの男の右腕をつかんで引きとめたのです、私が引きとめると同時に私と同小隊員である嶋田好比古巡査が私に応援してこの犯人の左腕をつかんで逮捕しようとしたのです。すると、この犯人は私達に何をするのや、放さんかえ等とわめきながら身をゆすぶつて私達の手をふり切ろうとしたのですが、私と嶋田巡査は力を合わせてこの犯人をその場にねじふせるようにして制圧してやつと逮捕したのです。そのとき私は逮捕時間確認のため自分の腕時計を見ると午後九時三三分でした。」とされている。

(三) ところで本件被疑事実は機動隊が労務者らの群衆を排除しようとした際発生したものでその状況によつて誤認逮捕がなされる危険性があるものと考えられるが、本件の場合には、前記(二)記載の供述調書によれば犯人から暴行を直接に受けた者が即時その場で犯人の右手を掴み、これを振り切つて一、二歩後方に退り逃走しようとした犯人を直ちに逮捕したものであつて、その間の状況から犯人を見誤るなどの余地が介在するおそれはほとんどなかつたと判断され、被疑者が前記被疑事実を犯したことを疑うに足りる相当な理由があると判断される。

(四) また、本件資料によれば、被疑者の宿泊していた場所がホテルであることおよび被疑者の職業、年齢等から判断すると少くとも被疑者が逃亡すると疑うに足りる相当な理由があると考えるのが相当である。

四、従つて、本件準抗告の申立はその理由がないので刑事訴訟法四三二条、四二六条一項により主文のとおり決定する。(源田修 鈴木秀夫 浜崎裕)

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